2023年09月17日

会員のおすすめ本の紹介(239)

会員から寄せられたおすすめ本の紹介をし
ます。

『嘘と聖典』(小川哲/早川書房)

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784150315276

最近では『君のクイズ』『地図と拳』で話題になった小川哲の短編集。
表題作の「嘘と聖典」はマルクスとエンゲルスの出逢いを阻止することで描いた歴史改変SF中編。
史実と虚構が入り乱れた作風は、著者の長編『ゲームの王国』でもお馴染みの通り。
史実がどうであったかを知らなくても、十分に楽しめるエンタテイメント溢れた中編。
 
で、問題は最初に載っている「魔術師」という短編。凄い。ヤバい。色んな感情を呼び起こさせる、まさに傑作。
 
さる有名なマジシャンを父にもつ姉弟のお話。父の伝説的なステージの録画映像を二人で見ているところから始まる。
話の筋としては、父がステージで披露したある伝説的なマジックの秘密を姉弟が解き明かしていくというもの。
その秘密が明らかになった時、父が何をしていたのかを知った姉弟と一緒に、観客(読者)である私も鳥肌が立った。
ある意味、推理小説的な解決とも言える、あまりにも皮肉で完璧なトリック。
 
凄いのは、まさに狂気としか言いようがないその真相を知った上でおとずれる、さらなる衝撃。
え、と言うことは、これからあの人はああなるわけで、ってことは、いやいや、本当に?と思う間もなく、物語は終える。
ショック状態と興奮状態とやるせなさと物悲しさと哀れさと芸術に向き合う人間の覚悟の崇高さやらなにやらで
ヘロヘロのまま再読してすぐに、物語序盤に父がステージで語る「マジシャンがやってはいけない3つのこと」
つまり、
・マジックを演じる前に説明してはいけない
・同じマジックを繰り返してはいけない
・タネ明かしをしてはいけない
が大きな意味を持っていることに改めて鳥肌が立つ。父のマジックを見る作中の観客に語られているそれが、
実は我々外の世界の読者に対しても大きな意味を持っており、その巧みさに打ちのめされる。
物語の最後のステージは、息をのんでステージを見守る主人公や、泣いている観客もおり、異様な緊張感に溢れている。
やがて観客が一体となって、ある一言を叫ぶが、その一言のなんと悲痛なことか!
たった数文字に込められた色んな感情のやり場のなさよ!
 
正直、一度読んだだけでは理解しきれる話ではないかもしれない。
よく言うスルメのような作品で、何度か読むうちに登場人物たちが厚みを増していき
この狂気の味わいがどんどん濃くなっていくような作品だと思う。
 
他にもいくつか短編が収録されており、それぞれ魅力的な作品たちなので、短編集としての出来も非常に良い。
ただ、次の短編を読み始めるには、ちょっと頭と心の整理が必要な、濃厚な一本目「魔術師」でした。
 
凄いな、小川哲!  

Posted by 佐賀ミステリ  at 20:22おすすめ本

2023年09月12日

会員のおすすめ本の紹介(238)

会員から寄せられたおすすめ本の紹介をし
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『イリーガル・エイリアン』(ロバート・J・ソウヤー/ハヤカワ文庫)

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784150114183

 人類は地球にやってきたアルファケンタウリの異星人、トソク人とファーストコンタクトを果たす。
 エンジンの損傷により母艦の大規模な修理を余儀なくされたトソク人は、部品の製造を人類に依頼し、その進んだ技術を人類に供与する友好関係が築かれたと思われた。
 しかしトソク人の一人が居留地で地球人の科学者を殺害したとの容疑で逮捕されたのだ。
 アメリカでの事件のため、アメリカの法律で裁かれることになる。つまり、陪審員を選ぶことになるのだが、その基準をどうするか、例えば、ミスター・スポックの父親の名前を知っているようなマニアは公正な判断ができないから陪審員として選ばないなど、そういった議論から始まる、異色の法定ミステリ。
 SFながら本作の解説は北原尚彦氏(ソウヤーの他の作品では我孫子武丸氏も解説を務めている)で、ミステリ的な作品がソウヤーには多いのですが、最近は邦訳が止まっているのが残念。
  

Posted by 佐賀ミステリ  at 20:08おすすめ本

2023年09月12日

会員のおすすめ本の紹介(237)

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『高い窓』(レイモンド・チャンドラー著 村上春樹訳/早川書房)

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784150704650

改めてチャンドラーの作品を再読してみると、以前読んだときには気づかなかった魅力がありました。語り口の妙や文体、気の利いた比喩にワイズクラックなど、読んでいて心地がいいです。『高い窓』はチャンドラーの作品の中でも比較的プロットがしっかりしていて物語の筋が追いやすいです。『ロング・グッドバイ』や『さよなら、愛しい人』ほどには有名ではないかもしれませんが、読んで損はない作品だと思います。物語の残す余韻も素晴らしいです。個人的には『リトル・シスター』(私はこの作品がチャンドラーのなかで一番好きです)とおなじくらい好きな作品です。  

Posted by 佐賀ミステリ  at 20:03おすすめ本

2023年09月12日

会員のおすすめ本の紹介(236)

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『天外消失』(早川書房編集部・編/ハヤカワ・ミステリ)



https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784150018191

1970年代に<世界ミステリ全集>の最終巻として刊行された、伝説的アンソロジーの
再編集版。外連味たっぷりの不可能状況を描き出したクレイトン・ロースンの代表作
である表題作を始め、あの小泉喜美子『弁護側の証人』の創作のヒントになったとも
言われるブレット・ハリデイ「死刑前夜」や、ミステリ史に残るリドルストーリーの
名作フランク・R・ストックトン「女か虎か」など、幅広いジャンルのミステリ短編の
逸品を選りすぐった、外れなしの作品集。
  

Posted by 佐賀ミステリ  at 19:56おすすめ本

2023年09月10日

2023年9月の例会を開催しました

佐賀ミステリファンクラブ2023年9月の例会を開催しました。

今月の例会は対面とオンラインで実施しました。
対面9人、ZOOM6人、計15人の参加がありました。
また、金沢ミステリ倶楽部から3人の会員様が、ゲスト参加して下さいました。 

〇日時:9月10日(日)13時~17時
〇課題本:『弁護側の証人』
〇内容:
 ①おすすめ本紹介
 ②課題図書の感想
 ③課題図書についてのフリートーク等

読書会では、
・ネタが明かされた瞬間、本を投げつけたくなるほど驚いた
・再読すると構成も含めて、小説の書き方が物凄く上手い
・これまで読んできたミステリの中で、ベスト3に入るほどの衝撃
・『検察側の証人』と比べると、タイトルに込められた意味が今一つ弱い
・小泉喜美子の作品を読んだのは初めてだが、他の作品も読んでみたいと感じた
・現実には、この立場の人間が弁護側の証人として法廷に立つことはなさそう
・小泉喜美子は翻訳作品の方をよく読んでいたので、文章が馴染み深かった
・読み返すと序章の書き方の巧さに感服する
・登場人物が揃いも揃ってクズばかりで驚く
・女性の描き方を『検察側の証人』と対比すると興味深い
・帯の紹介文で読む前に身構えてしまったので、ネタが見抜けてしまった
・仕掛けを明かす場面が静かすぎるので、もう少しどんでん返しを強調する書き方をしても良いのでは
・尊属殺の規定があるところに時代を感じる
・作者の仕掛けが早いうちに読めてしまったので、そこから物語を今一つ楽しめなかった
・海外ミステリの教養が深い作者だからこそ、この時代にこれほどのセンスを発揮できたのだろう
・言葉づかいなど、全体的に昭和の雰囲気
・仕掛けがあること自体は何となく予測できたが、それでも騙された
・現代の新本格のようなあざとい騙し方ではなく、純粋な小説技巧でミスリードしているのが凄い
などの意見が出るとともに、作品に盛り込まれている作者の幅広い教養や、本作を映像化した連続ドラマ、マジックを例に挙げての理想的な騙し方に関する議論などにも話が及び、有意義な会となりました。


  

Posted by 佐賀ミステリ  at 21:04例会